佃島 小島健司 写真展:キヤノンサロン1990年
江戸時代の伝統と歴史のある町。唯一戦災や震災においても、元佃(現在の1丁目にあたる)は町全体が焼け残った。その「佃」も時代の波を受けて、著しく変貌しつつあった1980年代後半。東京にありながら田舎的要素を多分にもっているこの町。私は、のんびりとした気の安らぐこの町の人々の温かさ、町の情景、佃っ子を残された遺産の存在するうちに、ありのままに、自然にとどめたいという感情がありました。歴史や文化を伝えるものとして写真は大きな働きをすると思います。
「佃島」展よせて 大野 信吾(亡き恩師。国画会写真部委員、日本写真学園教授) 自分の周囲の地域を丹念に記録し続け、今回の個展にまでこぎ着けた努力を先ず評価したい。学生時代からこの場所を写し続けており、始めは成人式などのイベントを中心とした記録性の強い作品であった。社会人になってからはこの地域が所謂、ウォーターフロント計画やらで変貌しつつある様子を、極く自然な眼差しで捉えるようになった。かれは決して器用な人間ではなく、何方かと云うと不器用で言葉も少ないタイプの人間なので、そのためしばしば誤解されることがあるが、実際はヒューマンな心を持つ優しい人間である。 それはこれらの作品で現実の姿になって表われていると思う。子供から老人や町並みに至るまで気負いなく、優しい眼差しで見つめ捉えられている。 写真学校を出たからと云って全ての卒業生がプロカメラマンになるとは限らない。彼は、卒業後に学校アルバム制作会社でアルバイトをしていたようであるが、現在は自分の好きな写真を写すためにオフィスプランナーとして生計を立てており、そして私の主催するワークショップのメンバーでもあり、多分この佃島の人達や風物詩、そして変貌する町並みを生涯写し続けることであろう。従って今回の作品は彼の一里塚の様なものであり、先ず、地元の方々に見て頂き、そして忌憚のないご意見を伺いそれを謙虚に受け止めて、次なる仕事に生かす様に心掛ける事を祈って止まない。 永いスパンで以て続けてこそ価値の出る仕事であり、慌てずゆっくりと時間をかけて見つめ、そして記録することを望んでいる。